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13 自然に逆らわず受け流す

災害前

状況situation

青森と岩手の県境に近い秋田県鹿角市。花輪地区は、江戸時代からの伝統木造町家と木造アーケードの続く風情のある町並みであった。

だが、明治38年の花輪(六日町)大火で強風にあおられ、134戸の家屋が焼失してしまう。その後すぐに再建されたが、昭和30年代頃からの道路拡幅などにより多くの伝統町家は取り壊されてしまう。

最後の2軒は、その後の日本海中部地震(M7.7震源は能代沖、津波による死者104人、全壊9000戸)の揺れにも耐え、今なおしっかりと建っている。

事例case

秋田県の内陸部、青森と岩手の県境近くに位置する鹿角市。藩政時代は南部盛岡藩領に属し、金山の発見と共に花輪地区には「市」が立ち、それに伴い街道沿いには1kmに渡る雪国独特のコミセ(又はコモセ)と呼ばれる木造アーケード街が続き、町は活気を帯びていた。

冬の間、雪で通行できない道路に替えて人々は自分の土地と建物の一部を提供し合ってコミセを作り、軒先に店を並べ、人や物が行き交い、出会う重要な交流の場としていた。だが、現在は、2軒を残してほとんどのコミセと町家が姿を消してしまった。

現存する町家のひとつ「関善」(せきぜん)。木造一部三階建て、10.5mの吹き抜けの大屋根、間口27m、奥行き20mという壮大な建築物には息をのむほどで、明治期の伝統的な商家としては国内最大級といわれる。この関家は江戸末期1856年(安政3年)から1983年(昭和58年)まで続いた造り酒屋で、「おっきかた(大きい方)」と呼ばれる地域の政治、経済を支えた名家でもある。最盛期には、家人、杜氏合わせて約40人が共同生活をしていた。だが、1905年(明治38年)の花輪(六日町)大火により焼失してしまう。

現在の主屋は、その後すぐに自家山林を使って再建されたものであるが、04年の道路拡幅により取り壊しの危機に遭った。

しかし、保存を望む有志の並々ならぬ尽力によって東に約4m移築され(曳き屋)、2005年に満100歳を迎えた。

この関善には、大火後、防火対策としていくつかの工夫が見られる。外部からの延焼を防ぐ為に火に強い土蔵が、敷地を取り囲むように建てられ、冬の強い風を防ぐ役割を担っている。また、主屋の北側には漆喰で塗られた壁と「ウダツ」が施され、隣からの延焼を防いでいる。また、この花輪地区には「風呂の水は朝まで抜くな」という言い伝えや「火伏(防)せ」という防火の祈祷などの町内行事もあった。また、復旧の際には、林や籾、貯金などの町内の共有財産を使ったといわれる。それは、江戸から明治にかけての多発した火災などの災害から必然的に生み出された地域の智恵である。

「関善」にはもうひとつ注目すべきものがある。それは、伝統的な木造構法である。関善の吹き抜けの屋根裏は、現代建築の「筋交い」を使う代わりに太い柱に穴を開け縦横に角材を組む「貫き」を使った小屋組構造になっている。地震の大きな揺れに対して木を縦横に組む事でエネルギーを分散する事で耐震性が増すという。また曲がった木をそのまま横軸として渡す事でアーチ効果が働き、上から荷重を相殺させる「架構法」が用いられている。関善を保存・管理しているNPO「関善賑わい屋敷」の理事で建築家でもある大森好一さん(51)は、「昔の大工達の勘は鋭く、曲がっている木を巧みに組み合わせて真っ直ぐに見えるようにし、小屋組で力を分散させている。日本海中部地震の時、かなり揺れたが、この関善は何ともなかった。」と語る。伝統木造構法は、「剛構造」の現代工法に対して力をいかに受け流し、分散させ、逃がしていくかという「柔構造」が巧みに考えられている。

木材が折れ、壁が抜けて力を吸収する事で家全体が倒壊する事を免れ、その後、その部分の補修も可能である。たとえ倒壊しかけても「逃げる時間」のある壊れ方をすると言われる。このような日本の伝統木造構法は、現在言われる「耐震」というもののとらえ方が違うのである。

智恵wisdom

コミセは、地域をしっかりとつなぐ「場」であった。そこで人々は様々なものを共有してきた。それは、当然非常時にも有効に働く。

木造家屋は火災に弱いと言われる。だが、弱いからこそウダツや土壁などの智恵が生まれ、人々は「言い伝え」などで防災意識を喚起してきた。また、伝統木造構法に見られる自然に逆らわずに、いかに受け流し、力を分散させるかという巧みな技術体系。

それを支えていたのは、コミセで育まれる日本古来の人間関係、風土であった。我々、現代日本人は、伝統の中に垣間見られる精神を今一度考え直す時が来ているのではないだろうか。

コミセ‥‥私有の土地と建物を提供して。交通、人的交流、情報交換、商売、子供の遊び場、祭事などの複合的な空間。地域社会が育んできた仕組み。