18 学びを地域に活かす
状況situation
南関東地区では1923年の関東大震災(プレート境界型地震 M7.9 死者10万人以上、80万戸以上の家屋被害)から80年を経て、再び活動期に入ったと言われる。
地震調査研究推進本部の発表によると、首都直下型のM6.7〜7.2の地震が発生する確率は、10年以内30%、30年以内70%、50年以内90%といわれる。
被害想定は、死者1万3000人、被害家屋80万棟と見られている。いつか必ずやって来るであろう首都直下型地震にいかに備えるべきか…。
事例case
1995年1月17日 阪神・淡路大震災。6434人の命が犠牲になった。その内の8割以上が家屋倒壊による圧死だった。地震対策の最良策は、言うまでもなく耐震住宅に住まう事である。だが、国内の総住宅(約4700万戸)のうち約25%(約1150万戸)は耐震性不十分で倒壊する可能性が高いといわれる。
東京都心からほど近い千葉県市川市は、昭和40年代のベットタウンとして開発される以前は水田地帯が多かったという事が、「新田」「平田」「大和田」という地名からも分かる。もしここで地震が発生した場合、軟弱地盤による家屋倒壊、液状化現象などの甚大な被害が予想される。そんな町に千葉県立「市川工業高校」という高校がある。行政や建築士会、大学などの協力で建築科の2年生は総合学習で、3年生は課題研究や実習で耐震診断ソフトの操作法や振動理論、計算式などの専門的な知識を学んでいる。
市川工高の学生達は、日本大学理工学部の八島信良講師(62)の熱心な指導のもと学んできた耐震診断の知識を実地で勉強させてもらおうと「耐震診断ボランティア」を03年(平成15年)から始めた。毎年、夏に行われる地域住民を対象とした公開講座「木造住宅耐震チェック講座」では参加者から自宅の間取りや壁や柱の位置などの情報を聞き、高校生達がパソコンに入力し、「耐震診断ソフト」(国土交通省監修)を使って耐震度を計測する。住民から要望があれば、実際に自宅まで出向く事もあるという。
高校生達が、床下や天井裏に入って筋交いの太さや金属の部材の状態などをチェックし細かい情報を再入力することでより信頼性の高い診断ができる。それによって専門家の診断を受けた方がいいと判断された場合には、市の建築指導課や建築士会、耐震診断士の窓口を紹介するという。市川工高はこの4年間で97戸の耐震診断を行ってきた。
市川工高はその後、地域の技術者を招いて「公開実験」や自治会と連携して「町内まるごと耐震診断」(一戸当たり2分かかる)を行った。
これは、生徒達の地道な活動が自治会などの地域に理解を得られたからこそ実現できたのである。今では、地域から耐震診断の要請も増えてきている。今後、市川工高は大きな企業や工場で耐震診断、耐震補強のプレゼンをやらせてもらい企業のBCP(事業継続計画)の中に組み込んでもらう事なども考えている。
この高校生による耐震診断ボランティアの立役者である市川工高の建築科主任、菊池貞介先生(48)は、「生徒達は、勉強した事が実地で生かされ、地域の防災力向上につながる事が実感でき、より学習意欲も湧き、使命感も芽生えてくる。」と語る。また、これまで専門家による耐震診断は敷居が高いと思っていた地域住民が、近所の高校の生徒達が無料で診断してくれるという事で市民講座などにも参加しやすくなり、耐震に消極的だった住民が実際に改修に踏み切った例も多いと菊池先生は言う。そして高校生が、「耐震診断させてください。」と地域に入っていく事で地域と学校の顔の見えるつながり(ネットワーク)も生まれてきた。
この高校生による「耐震診断ボランティア」は様々な相乗効果を生み出してきている。
智恵wisdom
震化の第一歩である耐震診断。専門家ではない学生が、勉強のために「耐震診断ボランティア」を行う事で、遅々として進まなかった耐震化が促進された。また、生徒にとっては学んだ事が活かされる事を感じるまたとない機会であり、地域にとっても耐震について学び、防災力を向上させるいい機会である。
高校生の耐震診断という事をきっかけに学校と地域がつながっていく素晴らしい取り組みの事例である。