19 暮らしの場をよく知る
状況situation
南関東地区では1923年の関東大震災(プレート境界型地震 M7.9 死者10万人以上、80万戸以上の家屋被害)から80年を経て、再び活動期に入ったと言われる。
地震調査研究推進本部の発表によると、首都直下型のM6.7〜7.2の地震が発生する確率は、10年以内30%、30年以内70%、50年以内90%といわれる。
被害想定は、死者1万3000人、被害家屋80万棟と見られている。いつか必ずやって来るであろう首都直下型地震にいかに備えるべきか…。
事例case
生協(生活協同組合)は、全国に549あり、2251万世帯(04年、日本生活協同組合連合会加盟数)が加入している巨大組織である。
消費生活協同組合法に基づき「よりよい暮らし」を求めて医、食、住、環境、共済などの多伎にわたる事業活動を展開している。
千葉県下約50万世帯(千葉県の人口の約2割)の加入者を抱える「ちばコープ」は「防災」にも積極的に取り組んでいる。
ちばコープの災害担当で千葉県生活協同組合連合会、災害対策委員会委員長でもある水島重光さん(59)は、現在、各地で官主導で行われている防災対策は、「男性型」だと指摘する。「昼間、地域に残っているのは女性と子供と高齢者です。それが現実なんです。」と語る。暮らしを担うお母さん達の無防備さに愕然とした水島さんは、「昼間地震が来たらあなた達しかいませんよ。助け合いながら何が出来るか考えましょう」と、まずは生協の会員さんから「避難図上訓練」を始めた。この2年間で約40回、県内の各地域や学校でお母さんや子供達にこの図上訓練ワークショップを行ってきた。
住所を同じくする7〜8人がひとつのグループになりテーブルに広げられた自分達の住んでいる地域の住宅地図を囲む。
その地図にまず自分の家を書き込み、行政の作る防災マップ上に書かれている情報(避難所、備蓄倉庫、消火器、消火栓、防火水槽、井戸、病院、公衆電話など)を地図に落とし込む。その事によって地域が徐々に分かってくる。「20年住んでいるけど何にも知らなかった。」というような家と駅しか知らないお母さんも意外に多い。遊び回っている子供達の方が逆に詳しい事もある。
その後、隣近所に外国人、妊婦、障がい者、高齢者がいる想定でいかに手助けするか、地震発生直後の想定では「地震が来るまでの10秒間で一体何が出来るか、どうやって命を守るか」を参加者に出してもらう事でいかに無防備かを気づかせる。その後、自分達で作った地図を元に避難所へ向かう想定や家族が外部から帰宅できない想定などを行う事で具体的なイメージを持たせる。
そして時折自分の阪神・淡路大震災時の実体験(当時、コープこうべ職員)を語り、「阪神では生き埋めになった約35000人のうち、8割の約28000人を助け出したのは、隣近所なんですよ。」と告げ、共助の必要性を訴える。
水島さんの「図上訓練」には、災害時の緊張感を仮想体験させるだけでなく、会場にはドリンクバーも用意されお母さんや子供を飽きさせないような」配慮もされている。そして「楽しくないと続かない」と生協スーパーで培ったお母さん相手の巧みな話術が人を引き付ける。
その後、地震に地域みんなで備えようと「ちば防災塾」を開催する。これは「ちばコープ」と「IOI倶楽部ちば(あいおい損保)」、「読売新聞千葉支社(読売くらぶ)」との三つの地元企業によって共同開催され、それぞれが「ノウハウ」、「資金」、「広報」などの得意分野、人的ネットワークを活した協働であった。阪神・淡路大震災を体験した水島さんは「被災地から企業が消えていく事ほど悲しい事はない。」と感慨深げに語る。今、企業が地元にどのような社会貢献が出来るか迫られているという。地域と企業をつなぐ水島さんは、神戸の思いを千葉のお母さん達に真剣にかつ楽しく語りかける。
智恵wisdom
生協という全国的な組織力と地域に密着した人的ネットワークを活かす。
そして「男性型」ではないお母さん、子供達に視点を置いた「図上訓練」は注目に値する。そしてそれを支える企業のネットワーク。
企業それぞれの持つ人的ネットワークを複合的にカバーする事でより広域的に防災意識を啓発している。そして何より水島さんの実体験が、「生の声」として多くの人の心をとらえている。