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減災に挑む30のストーリー
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災害前

状況situation

日本の中山間地域の典型のような新潟県中越地方をM6.8 震度7の地震が襲った。町とムラ、ヤマとを結ぶ道が寸断され、孤立する集落も出た。山間地の傾斜を利用して作られた棚田や錦鯉の棚池は破れ、下流に水害をも引き起こした。

またその数ヶ月後には、19年ぶりの大雪が中越地方を襲った。現代日本の抱える過疎化、少子高齢化、離農などの様々な問題がこの地震によって表面化してきた。一年の半分近くを雪に閉ざされる中越地方は、二年目の今まさに復興の芽が出始めている。

事例case

中越地震で最大の震度7を記録した震央に程近い川口町木沢。人の住むところでは世界一雪深い場所であるとも言われる。

その木沢より更に奥に峠という集落がある。地震前よりすでに4世帯に減少していた峠集落は、地震により過疎化に拍車がかかり現在は3世帯となった。木沢も地震後、2割の人が集落を後にしたという。峠に今も暮らす星野寅吉さん(64)は、地震で自宅が全壊した。

一命をとりとめた寅吉さんは、その後奥さんと一時的に木沢の中心部に避難したが、行政の指導もそっちのけで避難勧告中にもかかわらず通行不能なトンネルを迂回するように山道を切り拓きながら毎日のように全壊した自宅に戻り、残してきた牛に餌を与えたという。

そして避難勧告が解かれた後も仮設住宅には入らずに峠に戻り、辛うじて残った作業小屋を自ら修理してそこに住み始め、震災前からストックしておいた自前のお米、野菜、漬け物で命をつないだ。

その二ヵ月後から降り始めた19年ぶりの大雪に集落は閉ざされた状況の中でも寅吉さんは、時折、ウサギ猟にカンジキを履いて山へと出かけて行ったそうだ。自宅前の土手の崩れた棚田、棚池も「行政の言う事を待っていたらまた今年も作付けが出来なくなる」と言って06年の春には自前で棚田を修復し、田植えを始めた。

奥さんは「うちの父ちゃんは問題児で有名なんだよ」と笑う。「どうして自分でそこまで?」とも思うが、それは「寅吉さんの暮らしがそこにあるから」の何ものでもない。地震で崩れた山肌を背に頭にタオル鉢巻で耕運機を押す寅吉さんの姿はどこか誇らしげである。

そして2年目の春、ようやく田んぼには一面に水が張られ、新しい苗が植えられようとしている。寅吉さんの復興を象徴するかのように。

今、中越のヤマやムラでは、復旧から復興への新たな胎動が始まっている。

智恵wisdom

山で暮らす事は、都会の人間には不便に感じる。だが、寅吉さんにとって山は便利な場所であり、米や野菜などの食料を自ら作り、蓄える事の出来る暮らしは、非常時には何よりも強い。「行政のいう事をただ待つだけ」というものでなく、自分の暮らしは自分で守るという人間力には目を見張るものがある。

また山の暮らしの中で培われた生きる智恵は、そのまま減災につながる。